Gracias a Dios
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グラシアス・ア・ディオス県
グラシアス・ア・ディオス県(Gracias a Dios)はホンジュラスの最東端に位置し、北および東はカリブ海、南はニカラグア、西はコロン県およびオランチョ県と接しています。総面積は約17,000㎢で、日本で2番目に大きい県である岩手県よりもさらに広い面積を有しています。県は6つの市から構成され、県都はプエルト・レンピーラ市(Puerto Lempira)です。
グラシアス・ア・ディオス県は、国内でも有数の秘境として知られています。県の大部分が深いジャングルに覆われており、アクセスが非常に困難な地域としても有名です。そのため、人の手がほとんど加えられていない壮大な自然が今も残されています。コロン県との県境付近を流れるプラタノ川(Río Plátano)周辺には多様な動植物が生息しており、この一帯はユネスコの世界自然遺産にも登録されています。
さらに県内の密林のどこかには、かつてスペイン人侵略者たちが追い求めたとされる、伝説の富にあふれた古代都市が存在すると伝えられてきました。この都市は「カハ・カマサ(Kaha Kamasa)」、あるいは「シウダッド・ブランカ(Ciudad Blanca)」と呼ばれています。長らく伝説上の存在と考えられてきましたが、2012年の調査によってその存在が確認されました。現在は保全や略奪防止の観点から、正確な場所は公表されていません。
深いジャングルの奥に、今なお多くのロマンを秘めた県です。
グラシアス・ア・ディオス県の名称の由来については、明確な史料が残されているわけではありません。しかしグラシアス・ア・ディオスという名称自体は、もともと現在のレンピーラ県にあるグラシアス市に付けられていた地名であったとされています。この言葉を日本語に直訳すると「神よ、ありがとうございます」という意味になります。ホンジュラスでは国民の大多数がキリスト教徒であることから、宗教的な価値観に基づいて名付けられた名称であると考えられます。
一方、県都であるプエルト・レンピーラは、もともと「アウヒア・ヤリ(Auhia Yary)」と呼ばれていました。これは、グラシアス・ア・ディオス県周辺に暮らすメスキート族の言葉で「長いビーチ」を意味しています。しかし1933年、カルロス・サナブリア将軍によって現在の「プエルト・レンピーラ」という名称に改められたと言われています。伝承によれば、当時彼がこの地名を正確に発音することが難しかったことも、改名の一因であったとされています。
「レンピーラ」とは、ホンジュラスの英雄として知られる先住民の首長の名に由来しています。彼は主にホンジュラス西部から中部にかけて暮らしていたレンカ族の指導者でした。そのため、メスキート族の文化的影響が強いこの地域に、地理的にも文化的にも異なる部族の英雄の名が付けられている点には、少し皮肉にも感じられますね。
リオ・プラタノ生物圏保護区は、ホンジュラスに2か所ある世界遺産の一つで、雄大な熱帯雨林の中に数多くの動植物が生息しています。コロン県との県境付近を流れるプラタノ川(Río Plátano)周辺一帯が保護区に指定されており、16世紀にスペイン人が入植した際にも大規模な開拓が行われることはありませんでした。現在もアクセスが非常に困難な地域であることから、手つかずの自然が今なお色濃く残されています。
この保護区はホンジュラスの国土面積のおよそ7%を占めており、国内最大級の熱帯雨林地帯です。その規模と生態系の豊かさから、西半球ではアマゾンに次ぐ、2番目に大きな熱帯雨林とも言われています。さらに近年の研究では、1ヘクタールあたりの動物の生息密度がアマゾンの約3倍に達することが確認され、アメリカ大陸で最も生物密度が高い地域の一つとされています。
しかし一方で、違法な森林伐採や農地拡大を目的とした開墾、無秩序な畜産活動などが深刻な問題となっています。そのため現在、リオ・プラタノ生物圏保護区は「危機に瀕する世界遺産」のリストにも登録されています(2026年現在)。
グラシアス・ア・ディオス県は、ホンジュラス国内でも特にアクセスが難しい地域として知られています。距離の遠さに加え、道路や公共交通などのインフラ整備が十分に進んでおらず、ホンジュラス国民であっても移動手段に悩むことが少なくありません。
そのため、警察やレスキュー、救急医療が現場に到着するまでに多くの時間を要するケースがあり、十分な医療施設も限られています。この地域では、他の地域以上に「自分の身は自分で守る」という意識を持つことが重要になります。
また、ニカラグアとの国境沿いに広がる密林地帯という地理的条件から、麻薬カルテルの活動が問題視されている地域でもあります。警察の監視が行き届きにくい場所では、密猟や違法伐採などの違法行為が行われている可能性も否定できません。
さらに、この地域はアメリカへの不法移民ルートの一部ともされており、その仲介に犯罪組織(麻薬カルテルがその一端を担っている場合もあります)が関与しているケースも報告されています。こうした背景から、ガイドや信頼できる地元住民の同行なしに、密林や人通りの少ないコミュニティへ立ち入ることは避けるべきでしょう。